興味を持った人にだけ受け取って欲しかった

4月7日、『Modifica』のTwitterアカウントを開設した。私はどうせフリーペーパーだから設置しておけば勝手に持ってってくれるだろう、という達観はしていなかった。作る以上は世間に『Modifica』へ興味を持ってもらいたかったし、『Modifica』を欲しいと思わせたかった。

 

学生制作のフリーペーパーは多くの場合、発行直後の一定期間手配りでの配布を行うことが多い。確かに、手配りだと受け取り手の顔を見ることができるなどのメリットがある。しかしながら、一方で手配りだと同情の気持ちから冊子を受け取る人や、断り切れず渋々冊子を受け取る人など、冊子に興味の無い人が冊子を受け取る可能性が出てくる。『Modifica』は1500部しか刷らないので、興味を持った人にだけ受け取って欲しかった。たかがフリーペーパーである。無理して読むものではない。気になった人だけが手に取ってくれれば、それでいいのである。重要なのはいかに「読みたい!」と思わせるか、なのである。

親しみの湧くロゴを作ってくれ!

取材・記事制作と同時進行で、『Modifica』のシンボルとなるロゴの制作が行われた。ロゴは表紙だけでなく、Twitterや名刺など様々な場面で利用される重要なシンボルとなる。なるべく多くの人に親しみを持ってもらうためにも、事前にアンケートを実施し、数ある雑誌のロゴから人気のあるロゴとその印象を調査した。そして東京にある某有名芸術大学に通う友人のK君に、アンケートを元にしてロゴ制作を依頼した。K君にも夕食を一度ご馳走したくらいで、タダ同然でロゴを作ってもらった。それにも関わらずK君は、私が伝えたふんわりとしたイメージから10個以上のロゴ候補を作ってくれた。どれも素晴らしい出来だったが、何とか数個に候補を絞った。するとK君は、なんとその数個のエッセンスを生かしたロゴ候補をさらに10個近く作ってくれたのである。こうして修正に修正を重ねた結果、『Modifica』のロゴは完成したのである。

一歩間違えたら変態に

ロゴと同じくらい大切なのが、表紙の画像だ。冊子の前を通りすがった人は十中八九、表紙を見て受け取るか、受け取らないかを決める。内容がどんなに良くても、表紙のインパクトがなければ受け取ってはもらえない。以前所属していたフリーペーパーサークルで外部に冊子を設置した時の経験から、表紙はイラストやモノを被写体にした写真にするよりも、人を被写体とした写真の方がよくはける、ということである。そこで友人のMさんにオファーを出し、表紙のモデルになってもらった。発行後、何で表紙のモデルをMさんにしたのか何度か尋ねられたが、その理由は自分でもよくわかっていない。何となく直感でMさんが良いのではないか、とおもってしまったのである。

さて、表紙のモデルは決まった。次はどういう写真にするかが問題である。「はじめての読書。」の初めて感を写真一枚で簡潔に表現できるものはないか、と考えて出てきたのが小学生の黄色い帽子であった。次にモデルの背景をどうするかである。雑誌の読書特集でやりがちな本棚や本屋をバックにした写真では、通りすがった人の足を止めるようなインパクトはないと思った。やはり何かしらの違和感を感じさせるものにしたかったのである。そこでまず思い付いたのが、渋谷のスクランブル交差点である。しかし写真を撮影するにはあまりにも人が多すぎるし、タイミングも難しかろうと判断して却下。そして次に思い付いたのが、新宿の高層ビル群である。ビル街のど真ん中に突っ立って本を読むって、なかなかクレイジーな画になるんじゃないか?と思い決定。場所はコクーンタワーのあたりの歩道橋の上にした。地上だと、背景に人が写ってしまう可能性があるからだ。

写真には写っていないが、被写体とカメラの間の往来が切れる一瞬を狙って撮影している

いざ撮影する段になって、ロケハンをしておかなかったことを後悔した。ロケ地に選んだ歩道橋の往来がかなり激しかったのである。区に申請を出して撮影しているわけでもないし、道を封鎖しているわけでもない。撮影中もどんどん人が通り過ぎていくのだ。冷静になって考えてみると、歩道橋の上で小学生の黄色い帽子を被せた女の子に本を持たせて写真を撮るなんて異常である。通りすがった人の何人かは、そういう趣味のある人達なのではないかと思ったかもしれない。撮られる側のMさんからしたら羞恥プレイに他ならなかっただろうに、撮影中は僕より堂々としていた。肝が据わってる人だなぁ、と思う。結局、苦戦しながらも何とか表紙用の写真を撮影することができた。

発行中止の危機に追い込まれる

アルバイトでweb記事を何本か書いたことがあったとはいえ、雑誌記事の執筆に関してはズブの素人であったため、記事作成にはかなりの時間を要したものの、何とか完成に漕ぎつけた。かくて文章および画像の素材は揃ったわけであるが、ここで大問題が発生した。紙面のデザイン(Adobeのillustratorを使用した紙面データ作り)を依頼していたS先輩が降りると言い出したのである。ここで簡単に私とS先輩の関係を記しておくと、S先輩は私の中学・高校の1個上の先輩で、文化委員会でも後輩として大変お世話になった方である。S先輩は卒業後、美大に進学し、デザインの勉強をしている。

私はillustratorは多少触れる程度で、全20ページのフリーペーパーをデザインする技術力は持ち合わせていない。そこで、中高のよしみでS先輩にデザインを依頼した。デザインだけでなく、記事広告用の学生座談会のメンバー集めまで行ってもらったのである。私は完全にS先輩におんぶにだっこの状態であった。ところが、完成した素材を送ったところ、急にS先輩の返信が滞りだしたのである。締め切りも近づいてきたのでS先輩を問い詰めてみたところ、新しく引き受けた仕事を優先することにしたため、これ以上は手を貸せないということを告げられた。

そこで私はあろうことか、S先輩にキレてしまったのである。約束を破るなんて酷いじゃないか、と。大げさではなく、このフリーペーパーは私の大学人生を懸けたものであった。それなのに、ちょっと良い話が入ったからと言って約束を放棄してしまうのは最低である、と。しかしよくよく考えてみれば、私のフリーペーパー制作をS先輩が手伝うことに何のメリットもない。S先輩が20ページ一生懸命作っても(それに記事広告まで協力してもらっている)、彼には一銭も入ってこないのである。だからと言って約束を破って良いわけでもないけど、依頼者の私も完全に甘え切っていたのである。S先輩に限らず手弁当で協力してくれた人たちの存在を、当たり前のことのように思いこんでいた節があったかもしれない。この点は冊子を完成させてから一番反省したポイントである。(その後S先輩とはきちんと話をして、現在は和解している。)

こうして悪戦苦闘しながらも何とか完成に近づきつつあった『Modifica』は足を止めざるをえなくなった。私はどん底に落とされた気持ちだった。このまま頓挫してしまうことが不安になって、なかなか寝付けなくなった。デザインができる友人・知人を片っ端からあたってみたが、断られてしまった。私の考えに賛同して協賛をしてくださった企業様に謝罪するのが何よりも辛かった。私は絶望の淵にいた。制作期間中で一番気を病んだのは、間違いなくこの時である。

そんな時、意外な人物が救いの手を差し伸べてくれた。父である。父は落ち込んでいた私を見かねて知り合いのデザイナーのYさんを紹介してくれた。自作のフリーペーパーまで親に頼るのは恥ずかしい、情けないと思ったが、私はこれが最後の頼みの綱だと思い、Yさんにデザインをお願いすることにした。最終的に、広告費から発行費を引いた残りの金額を全てYさんに支払う、という条件で冊子のデザインをYさんは引き受けてくださったのである。とはいえ、デザインでご飯を食べている人に対して支払う報酬としては法外な安さだったのではないかと思う。それでも文句ひとつ言わずにデザインを引き受けてくださったYさんには感謝の一言に尽きる。

こうして、一度は暗礁に乗り上げた『Modifica』は再び動き出した。

(つづく)

 

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