1人渉外部、炎の営業

ちょうど3月1日から、私は『Modifica』の制作を開始させた。今、手帳を見返して毎日のように出かけていた日々のことを思いだした。もちろん『Modifica』関連の予定を入れていない日もあったが、頭からは一瞬たりとも離れなかった。

まず広告営業の第一歩として、協賛してくれそうな企業のリストアップを行った。闇雲に協賛依頼を出すと、断られっぱなしになり、精神衛生上よろしくないので、この前準備が意外に大切である。昨年集めた大学生発行のフリーペーパーや大学生向けのアルバイト求人サイト、学内掲示板で広告を打っている企業などから厳選したものをまとめた。

まずは完成したリストの中から、手当たり次第に営業のアポ取りをメールで行う。アポ取りは電話で行うこともある。メールよりも電話の方が声を発さなければならない分、相手方もこちらの提案を無下には断りにくくなるが、反対に断られた時も活字より肉声の方が拒絶感が大きくショックも大きい。そのため私は手軽に送れるメールでのアポ取りを中心とした。

営業のアポイントメントメールを返信で断られるのはまだ優しい方で、多くの場合はメール自体を読んでもらえないか、無視されてしまうことの方が多い。当たり前だ。企業には多分日常、同様の営業・勧誘メールがごまんと届いているはずで、1つ1つに丁寧に対応する時間なんてとても無い。私だって、急に同じようなメールが届いたらスパムだと思ってしまうだろう。

そんな中でも、丁寧に返信をくださった心の優しい企業さんがいて、協賛内容の説明をする時間を設けさせていただけた。どこまで書いて良いのかがわからないので、詳しい協賛交渉の内容の説明はカットさせていただくが、どの担当者の方も拙い私の説明を優しく聞いてくださった。特にK社さんの訪問は特に緊張した。K社さんのオフィスは築10年、地上19階建ての綺麗な高層ビルの中にあった。けなす意図は全く無いのだが私にはかなり敷居が高く、かつてなく緊張した。

事件発生☠

オフィスを訪問する前にトイレに寄ったのだが、ここで事件は起こった。用を足して洗面台で手に石けんをつけた後、水で洗い流そうとしたところ、水が出ないのである。よりにもよって、何でこんな時に!自動の水道にいくら手をかざしても水は一滴も出てこない。水石けんなら我慢してそのままハンカチでふくこともできたが、残念ながらここのはクリーミーな泡石けんだった。後で使う人の迷惑をかけることを顧みずジェットドライヤーで泡を吹き飛ばしてしまうか、恥を捨ててトイレのウォシュレットで手を洗うかの究極の選択を迫られた。そして私は尊厳を捨て、ウォシュレットで手を洗うことを決断する、その直前になってやっと水道から水が飛び出した。洗面台の前での約10分の葛藤の末、やっとの思いで手を洗うことができたのだ。

この珍事のお陰だろうか、さっきまでの緊張は吹っ飛び、どうにか広告協賛を取り付けることに成功した。そしてこのK社さんの広告は唯一の記事広告となった。この時の私はまだ、この記事広告が大きなトラブルの引き金になるとはつゆ知らず、浮かれまくっていたのである。

こうして私は何とか3社からの広告協賛を取り付け、『Modifica』は資金調達の目処が立った。印刷会社さんから提示された発行費を大きく上回る金額で、『Modifica』の黒字は確定した。フリーペーパーの創刊号としては上出来すぎる船出であったと言える。しかしこの黒字も後の出来事により、あっけなく崩れ去ってしまった。

始めるまで取材を完全に舐めていた。

さて、資金が集まったらいよいよ取材である。白状すると、私は始めるまで完全に取材を舐めていた。人に会って話を聞く。これだけが取材だと、幼稚にも程がある思い込みをしていたのである。現実はそんなに甘くなかった。急にアポなしでお店を訪れても、取り合ってもらえないので、まず取材許可を取らなければならないのである。自分で整理しきれなくなるくらい、いくつもの取材先にメールを出してアポを取った。

特に今回はテーマが読書であったため、本屋さんに取材を行くことが多かった。どの本屋さんもお客さんの邪魔にならないよう開店前の取材になることが多かった。お客さんがいる時間が本屋さんは一番忙しい、と思いがちだが、そんなことはない。開店前も取次から届いた段ボール箱の荷ほどき、陳列など開店準備で大忙しなのである。つまり、お店は開店中じゃなくても慌ただしい。中でも神保町の東京堂書店さんはお店の改装で大きな荷物の搬入が行われる中、無理やり取材させていただいた。本当にご迷惑をお掛けしました。

本屋さんの取材でもう一つ印象に残っているのは、荻窪のTitleでの取材である。実を言うと、以前私は某ネット旅メディアの記事でTitleの記事を書いたことがある。その際に、事前アポ無しで訪問し(今思うと、かなり非常識だった)、取材での店内の写真撮影を断られたことがあった。後で店主の辻山さんが記した『本屋、はじめました』を読んで、辻山さんのお客さんが本をじっくり吟味する空間を守ろうとしているのだということが分かった。確かに、カメラをもった人にチョロチョロされたらお客さんも落ち着いて本を選びにくいだろう。私はこの失敗を反省し、綿密に練り上げた媒体資料と企画書を持参して、Titleを訪問した。結果、熱意が伝わったのか、はたまた怪しいライターだと思われなかったのか、撮影の許可をいただけた。こうした交渉の結果が『Modifica』に掲載された写真なのだ。ちなみに、表紙で女の子が持っている本『という、はなし』もTitleで購入した本である。

数ある(といっても9つしかない)企画の中で、特に反応が良かった企画が「インタビュー こち亀全1952話を卒論にした男」である。私のゼミの先輩で、卒論でこち亀を自己流で綿密に分析した人がいて、その論文がかなりの力作・労作であったので、このまま忘れ去られるのはもったいないと思い、記事にさせてもらった。基本的に『Modifica』の協力者の方にはノーギャラで協力してもらっているので、この先輩にも一切報酬はお支払いしていないが、写真撮影前にお部屋のお掃除を手伝わさせていただいた。掃除が2時間近くかかったにも関わらず、撮影はほんの数分で終わってしまいなんだかモヤモヤしたが、好評だったので結果オーライである。

難物だったこち亀タワー。倒壊しまくり、何度も作り直した。

そんなこんなで徐々に企画や原稿が集まりつつあった『Modifica』であったが、3月の末、春休みも終わりに近づいてきた時、発行中止に陥りかねないトラブルが発生してしまう……。

(つづく)

 

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